決算分析

【決算分析】INFORICH、増収増益も市場の評価は慎重?モバイルバッテリーの雄、次なる一手は

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モバイルバッテリーシェアリングサービス「ChargeSPOT」を展開する株式会社INFORICH(東証グロース:9338)が、2025年12月期第1四半期の決算を発表しました。増収増益と好調な滑り出しを見せたものの、PTS(私設取引システム)市場では株価が下落する場面もあり、市場の評価は慎重な側面も伺えます。本記事では、同社の決算内容を深掘りし、事業の現状と今後の展望、そして株価変動の背景について考察します。

INFORICHの事業概要:「どこでも借りられて、どこでも返せる」利便性を追求

INFORICHグループは、「ChargeSPOT」ブランドで知られるモバイルバッテリーシェアリングサービスを国内外で展開しています。主力事業は以下の3つのセグメントで構成されています。  

  1. ChargeSPOT国内事業: 日本国内におけるモバイルバッテリーシェアリングサービスの提供。コンビニエンスストア、鉄道駅、商業施設など、多様な場所にバッテリースタンドを設置し、「どこでも借りられて、どこでも返せる」利便性を追求しています。  
  2. ChargeSPOT海外事業: 香港、中国、台湾、オーストラリア、オーストリアなどを中心とした海外での直営およびフランチャイズによる「ChargeSPOT」の展開。グローバルなネットワーク拡大を進めています。  
  3. プラットフォーム事業: 「ChargeSPOT」の設置を通じて構築した店舗や施設との関係性、多数のユーザー基盤を活かした新たな収益機会の創出。バッテリースタンド付属のサイネージ広告や、ファンが個人でアーティストを応援できる「CheerSPOT」、子会社化したTrim株式会社が提供する完全個室型ベビーケアルーム「mamaro」などが含まれます。  

同社は、スマートフォンの充電切れという日常的な課題に対し、シェアリングエコノミーの概念を取り入れたソリューションを提供することで、成長を続けています。

2025年12月期 第1四半期 決算ハイライト

連結経営成績

項目2025年12月期 第1四半期前年同期比2024年12月期 第1四半期
売上高 (百万円)3,001+43.8%2,087
EBITDA (百万円)774+119.2%353
営業利益 (百万円)267+113.5%125
経常利益 (百万円)167-13.6%194
親会社株主に帰属する四半期純利益 (百万円)114+14.7%99

出典: 株式会社INFORICH 2025年12月期 第1四半期決算短信  

売上高は前年同期比43.8%増の30億1百万円と大幅な成長を達成しました。EBITDA、営業利益もそれぞれ119.2%増、113.5%増と好調です。 一方で、経常利益は為替差損の影響などにより13.6%の減少となりました。 親会社株主に帰属する四半期純利益は14.7%増の1億14百万円となっています。  

連結財政状態

項目2025年3月末2024年12月末
総資産 (百万円)19,40918,951
純資産 (百万円)5,4105,390
自己資本比率27.5%28.1%

出典: 株式会社INFORICH 2025年12月期 第1四半期決算短信  

総資産は前期末から増加し、194億9百万円となりました。自己資本比率は27.5%です。  

キャッシュ・フローの状況 (連結)

2025年12月期第1四半期の連結キャッシュ・フロー計算書は作成されていませんが、調整後フリーキャッシュフローは7億57百万円となりました(前年同期比+243%)。営業活動によるキャッシュフローは堅調な事業活動により増加しています。  

事業別売上高 (2025年12月期 第1四半期)

セグメント売上高 (百万円)全社共通費用配賦前 セグメント利益(損失) (百万円)
ChargeSPOT国内2,115446
ChargeSPOT海外1,161(98)
プラットフォーム133(34)
合計3,410313
調整額(409)(45)
連結売上高/利益3,001267

※セグメント間の内部売上高又は振替高を含む 出典: 株式会社INFORICH 2025年12月期 第1四半期決算短信 及び 株式会社INFORICH 2025年12月期 第1四半期決算説明資料  

国内ChargeSPOT事業が売上の中心であり、利益も安定して創出しています。 海外事業も売上を伸ばしていますが、まだ投資フェーズであり損失を計上しています。 プラットフォーム事業は売上規模は小さいものの、今後の成長が期待される領域です。  

成長性と人員について

売上高成長率と設置台数の増加

当第1四半期の売上高は前年同期比43.8%増と高い成長率を維持しています。 この成長を支えるのは、国内外におけるバッテリースタンド設置台数の増加です。2025年3月末時点で、グループ全体の直営エリアでの設置台数は70,053台(国内50,112台)に達し、フランチャイズ展開を含めると74,900台となっています。 特に国内では前年末比で2,843台増加し、5万台を突破しました。 台湾でも設置台数が1万台を超えるなど、グローバルでの拡大が顕著です。  

人員増加率

決算資料には人員増加率に関する直接的な記載は見当たりませんでしたが、連結従業員数は2025年3月末時点で335名(臨時雇用者43名を含む)となっています。 前期末(2024年12月末)の連結従業員数は335名であり、第1四半期での変動は見られません。 ただし、2024年を通じてM&Aを3件実施しており、それに伴い連結従業員数が増加したと記載されています。  

成長性と人員の比較考察

売上高は大幅に成長している一方で、直近の従業員数には大きな変動が見られません。これは、M&Aによる人員増が前期に一段落し、現在は既存の人員体制で事業拡大と収益性向上を図っている段階である可能性を示唆しています。また、プラットフォーム事業の強化や海外展開の加速など、今後の成長戦略を実行していく上で、専門性を持つ人材の獲得や育成が重要になると考えられます。

過去の推移と今後の展望

過去の推移

INFORICHは、モバイルバッテリーシェアリングサービス市場の黎明期から事業を展開し、先行者としての地位を確立してきました。設置台数の増加とともに利用者数も順調に拡大し、売上高も右肩上がりで成長しています。特に国内事業においては、台あたりエコノミクスも黒字化し、安定的な収益基盤を築きつつあります。  

PTS株価下落の考察:市場の期待と現実のギャップか

決算発表後、INFORICHの株価はPTS市場で一時的に3,885円から3,735円へ約3.86%下落しました。この背景には、いくつかの要因が考えられます。

  1. 市場期待との乖離:売上高と営業利益は大幅な伸びを示したものの、経常利益が為替差損により前年同期比で減少したことがネガティブに捉えられた可能性があります。通期経常利益予想21億90百万円に対し、第1四半期実績1億67百万円の進捗率は約7.6%です。第1四半期が季節的なオフシーズンであることを考慮しても、市場の一部には物足りないと映った可能性があります。  
  2. 材料出尽くし感: 好決算が事前に織り込まれており、発表後に材料出尽くしとして利益確定の売りが出た可能性も考えられます。
  3. 短期的な利益確定売り: 株価が上昇傾向にあった場合、決算発表を機に短期的な利益確定売りが出やすくなることがあります。
  4. 為替リスクへの懸念: 経常利益の減少要因の一つとして為替差損が挙げられており 、今後の海外展開における為替リスクを懸念した投資家がいた可能性も否定できません。
  5. 海外事業・プラットフォーム事業の赤字拡大:
    国内事業の好調さが際立つ一方で、海外事業が赤字転落し、プラットフォーム事業も赤字幅が拡大した点は、将来の収益源としての期待に対し、足元の収益貢献が遅れているとの見方につながったかもしれません。

ただし、これはあくまで決算内容と一般的な市場動向からの推測であり、個別の投資判断を推奨するものではありません。

成長性と過去の推移、今後の展望

INFORICHは引き続き高い成長率を維持しています。2025年第1四半期の連結売上高成長率は+43.8%と、前年同期の+44.6%に匹敵する水準です。

人員増加と販管費:
直接的な人員数の記載はありませんが、販売費及び一般管理費は20億45百万円(前年同期は14億70百万円)と39.1%増加しており、事業拡大に伴う人員増強やマーケティング費用などの投資が積極的に行われていることがうかがえます。

今後の展望:
2025年12月期の通期連結業績予想は据え置かれ、売上高156億47百万円(前期比46.2%増)、営業利益23億14百万円(同39.3%増)、経常利益21億90百万円(同25.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益23億58百万円(同14.5%増)と、引き続き高い成長を見込んでいます。

今後の成長の鍵は以下の通りです。

  • ChargeSPOT国内: 設置台数とMAUの継続的な増加による収益基盤のさらなる強化。
  • ChargeSPOT海外: ネットワーク拡大と利用促進による収益性の改善。
  • プラットフォーム事業: 「CheerSPOT」や「mamaro」などの新規サービスの認知度向上と収益化。

第1四半期は寒さや日数の影響でレンタル需要が低下するシーズンとされていますが、国内事業の好調ぶりは通期予想達成への期待を高めます。一方で、海外事業とプラットフォーム事業の早期黒字化が課題となります。

まとめ:トップライン成長は力強い、収益性改善への注視続く

INFORICHの2025年第1四半期決算は、売上高の大幅な成長と国内ChargeSPOT事業の力強さを示すものでした。一方で、為替変動リスクの顕在化や、成長投資が続く海外・プラットフォーム事業の収益性改善は今後の課題です。PTSでの株価の反応は、市場が短期的な利益圧迫要因や期待とのギャップに注目した結果と言えるでしょう。

今後は、国内事業のさらなる収益性向上、海外事業の成長加速、そしてプラットフォーム事業の育成が成長の鍵となるでしょう。同社が「垣根を越えて、世界をつなぐ」というミッションのもと 、どのように事業価値を高めていくのか、引き続き注目が集まります。

免責事項:
本記事は提供された情報に基づき作成されたものであり、情報提供を目的としています。特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。筆者および情報提供元は、本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても責任を負いません。

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Dr.カブアガール
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Data Analytics Specialist
金融データ分析メディア「インベスター・ラボ」所長 兼 データアナリティクススペシャリスト。 日々変化する株式市場の海の中から、データという羅針盤を手に「隠れた成長企業」という宝の島を探し求める探求者。複雑な財務データや市場トレンドを分かりやすく紐解き、個人投資家の皆様の意思決定をサポートすることを使命に燃えている。チョコに目がない
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