決算分析

DeNA、2025年3月期決算分析:ゲーム事業絶好調でV字回復、純利益241億円達成!AI戦略で次なる成長へ

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株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA、コード番号:2432)が2025年5月9日に発表した2025年3月期(2024年4月1日~2025年3月31日)の連結決算は、売上収益が前期比19.9%増の1,639億97百万円、営業利益は289億73百万円(前期は282億70百万円の損失)、親会社の所有者に帰属する当期利益は241億93百万円(前期は286億82百万円の損失)と、大幅な増収増益を達成し、V字回復を果たしました。

特にゲーム事業における新作『Pokémon Trading Card Game Pocket』の大ヒットが業績を牽引し、スポーツ事業も堅調に推移しました。この好調な業績を受け、年間配当金は前期の20円から大幅増配となる65円(普通配当33円、特別配当32円)を予定しています。

主要経営成績ハイライト(連結)

勘定科目2024年3月期 (百万円)2025年3月期 (百万円)前期比備考
売上収益136,733163,997+19.9%
営業利益△28,27028,973黒字転換
税引前利益△28,13031,817黒字転換
親会社の所有者に帰属する当期利益△28,68224,193黒字転換
1株当たり当期利益 (円)△257.60217.24黒字転換
主要財務指標2024年3月期末2025年3月期末増減
資産合計335,708394,188+58,480
資本合計220,025252,875+32,850
親会社の所有者に帰属する持分209,204241,734+32,530
自己資本比率 (%)62.361.3-1.0 pt財務健全性は依然高水準
流動比率 (%)231.7160.7-71.0 pt資産構成の変化によるもの
キャッシュ・フロー (CF)2024年3月期2025年3月期増減
営業活動によるCF△10,83938,999+49,838大幅改善
投資活動によるCF△12,629△12,280+349継続的な投資活動
財務活動によるCF△4,102△5,445-1,343配当支払増など
現金及び現金同等物の期末残高71,39692,803+21,407
成長性・収益性指標2024年3月期2025年3月期
売上高成長率 (%)1.319.9大幅な成長回復
EPS成長率 (%)赤字から黒字への転換により単純比較不可
売上高営業利益率 (%)△20.717.7大幅改善
親会社所有者帰属持分当期利益率 (ROE参考)△13.310.7決算説明会資料では当期ROE 11%と記載

(注) 自己資本比率 = 親会社所有者帰属持分 / 資産合計。流動比率は決算短信P.6の記載を参照。ROE参考値は短信P.1より。

業績分析:ゲーム事業の躍進がV字回復を後押し

2025年3月期のDeNAは、まさに「復活」を印象付ける決算となりました。売上収益は前期比19.9%増と大幅に伸長し、各利益段階で黒字転換を達成しました。

最大の要因は、ゲーム事業の好調です。2024年10月30日にリリースされた『Pokémon Trading Card Game Pocket』が全世界で累計1億ダウンロードを突破(2025年2月公表)するなど、想定を大きく超えるヒットとなり、売上収益780億99百万円(前期比44.6%増)、セグメント利益385億77百万円(前期比1,016.1%増)と驚異的な伸びを見せました。この成功は、DeNAの持つIP活用力と運営ノウハウの高さを改めて証明したと言えるでしょう。

スポーツ事業も好調を維持し、売上収益313億3百万円(前期比14.8%増)、セグメント利益28億36百万円(前期比33.5%増)と増収増益を達成しました。横浜DeNAベイスターズの観客動員数が球団史上最多を記録したことなどが貢献しました。

一方、ライブストリーミング事業は、売上収益405億62百万円(前期比4.7%減)、セグメント損失2億1百万円(前期は3億39百万円の利益)と、減収減益となりました。国内の「Pococha」ではマーケティング費用を抑制し収益性確保に注力したものの、競争環境は依然として厳しい状況です。

ヘルスケア・メディカル事業は、売上収益107億66百万円(前期比8.1%増)と増収ながら、セグメント損失は36億19百万円(前期は36億40百万円の損失)と、赤字幅はほぼ横ばいでした。データ利活用は堅調なものの、メディカル領域でのビジネスモデル確立には時間を要しており、一部資産について減損損失を計上しています。

財務状況:健全性を維持しつつ成長投資へ

財務面では、資産合計が前期末比584億円増の3,941億円となりました。現金及び現金同等物は214億円増加し928億円となり、手元流動性は潤沢です。自己資本比率は61.3%と依然として高い水準を維持しており、財務基盤は安定しています。流動比率は160.7%と、短期的な支払い能力にも問題はありません。

キャッシュ・フローについては、営業活動によるキャッシュ・フローが389億円の獲得(前期は108億円の支出)と大幅に改善しました。これは主に税引前利益の黒字化によるものです。投資活動によるキャッシュ・フローは122億円の支出と、引き続き成長への投資を行っています。財務活動によるキャッシュ・フローは54億円の支出となり、増配による配当金支払額の増加などが影響しています。

事業別売上高と利益(2025年3月期)

セグメント区分売上収益 (百万円)セグメント利益(損失) (百万円)前期比 (売上収益)前期比 (セグメント利益)
ゲーム事業78,09938,577+44.6%+1016.1%
ライブストリーミング事業40,562△201-4.7%赤字転落/悪化
スポーツ事業31,3032,836+14.8%+33.5%
ヘルスケア・メディカル事業10,766△3,619+8.1%-0.6%
新規事業・その他3,618△1,124+18.4%-13.7%
合計163,99732,434+19.9%+9326.8%

(注) セグメント利益(損失)の合計は、調整額(全社費用等)△4,034百万円を差し引く前の数値です。調整後のIFRS営業利益は28,973百万円となります。

財務分析:収益性・安全性が改善

  • 収益性:売上高営業利益率は17.7%と、前期の赤字から大幅に改善しました。これは主にゲーム事業の高収益化によるものです。
  • 成長性:売上高成長率は19.9%と高い伸びを示しました。EPSは黒字転換し、大幅な改善を見せています。
  • 安全性:自己資本比率は61.3%と依然として高い水準を維持しており、財務の安定性は確保されています。流動比率は160.7%と、前期の231.8%からは低下しましたが、短期的な支払い能力にも問題ない水準です。流動負債の増加(主に借入金と未払法人所得税の増加)が影響しました。

株価分析

  • EPS(2025年3月期実績):217.24円
  • 適正株価の試算
    • 実績PERの平均値((26.1+21.9)/2 = 24.0倍)を基にすると、適正株価は 217.24円 × 24.0倍 = 約5,214円
    • 予想PER(26.3倍)を基にすると、適正株価は 217.24円 × 26.3倍 = 約5,714円
    • これらはあくまで試算であり、実際の株価は市場環境や将来の成長期待など多くの要因によって変動します。

DeNA決算の「良かった点」

  1. ゲーム事業の劇的な復活と高収益性: 『Pokémon TCG Pocket』の大ヒットは、DeNAのゲーム開発・運営能力の高さを改めて証明しました。これが通期業績をV字回復させた最大の要因です。
  2. スポーツ事業の安定成長: 地域密着型の球団運営が実を結び、安定的な収益源として確立されつつあります。スマートシティ構想との連携も期待されます。
  3. 財務健全性の回復と株主還元の強化: 大幅な黒字転換により財務基盤がさらに強化されました。これを受け、1株当たり年間配当金を前期の20円から65円(普通配当33円+特別配当32円)へと大幅に増配し、連結配当性向29.9%と積極的な株主還元姿勢を示しました。
  4. PBR1倍割れの解消: 業績回復と株主還元強化により、株価も反応しPBR(株価純資産倍率)1倍割れを解消しました。

DeNA決算の「懸念点」

  1. ゲーム事業の持続可能性: 『Pokémon TCG Pocket』への依存度が高まっており、同タイトルの人気が一段落した場合の業績への影響が懸念されます。新規ヒット作の継続的な創出が課題です。
  2. ライブストリーミング事業の再成長: 収益性重視への転換は理解できるものの、市場競争が激化する中で、再び成長軌道に乗せられるかが注目されます。
  3. ヘルスケア・メディカル事業の収益化: 長期的な成長エンジンとして期待されるものの、赤字が継続しています。具体的な収益化への道筋と時期が待たれます。
  4. 2026年3月期の業績予想の非開示: 『Pokémon TCG Pocket』の動向を含め、合理的な数値の算出が困難として次期業績予想の開示を見合わせました。これは事業環境の不確実性を示唆している可能性があります。

今後の展望:AI戦略「AI-ALL-IN」で次なる成長ステージへ

DeNAは、AIを中核とした中長期の成長戦略「AI-ALL-IN」を掲げています。具体的には、

  • AIによる全社生産性向上: 全社員がAIツールを活用できる環境整備、エンジニアリング支援、HR業務へのAI導入などを進めています。
  • AIによる既存事業の競争力強化: ゲームのステージ難易度測定AI、スポーツ選手の動作解析AI、スマートシティにおけるAI技術活用など、各事業領域でAIの導入を進めています。
  • AI新規事業の創出・グロース: AIスタートアップへの投資やVenture BuilderによるAI事業の立ち上げ、国内企業へのAI導入支援などを積極的に展開しています。

このAI戦略が、ゲーム事業の一過性のヒットに終わらせず、持続的な成長を実現するための鍵となりそうです。

まとめ

DeNAの2025年3月期決算は、『Pokémon TCG Pocket』という強力な起爆剤を得て、見事なV字回復を遂げました。財務体質の改善と積極的な株主還元も評価できます。一方で、ゲーム事業の持続性や他事業の収益化など、課題も残されています。

今後は、AI戦略「AI-ALL-IN」を本格化させ、全社的な生産性向上と既存事業の強化、そして新規AI事業の創出を通じて、いかに持続的な成長軌道を描けるかが焦点となります。次期業績予想の開示が見送られた点はやや気掛かりですが、市場との対話を継続し、成長ストーリーを明確に示していくことが期待されます。


(免責事項:本記事は公開情報に基づき作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断はご自身の責任において行うようにしてください。)

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Data Analytics Specialist
金融データ分析メディア「インベスター・ラボ」所長 兼 データアナリティクススペシャリスト。 日々変化する株式市場の海の中から、データという羅針盤を手に「隠れた成長企業」という宝の島を探し求める探求者。複雑な財務データや市場トレンドを分かりやすく紐解き、個人投資家の皆様の意思決定をサポートすることを使命に燃えている。チョコに目がない
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