決算分析

資生堂、2025年第1四半期は減収減益も構造改革に手応え 日本事業が利益貢献、米州は依然課題

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株式会社資生堂が2025年5月12日に発表した2025年12月期 第1四半期連結決算は、売上高が前年同期比8.5%減の2,282億円、本業の儲けを示すコア営業利益は同27.2%減の83億円となりました。中国・トラベルリテール事業や米州事業の苦戦が響いたものの、日本事業における構造改革効果による大幅な増益が利益を下支えしました。非経常項目が前年同期から大きく改善したことにより、親会社の所有者に帰属する四半期純利益は37億円と黒字転換を果たしています。

同社は、不透明な外部環境下においても、中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」および「アクションプラン 2025-2026」に基づき、収益確保と構造改革を着実に推進する方針で、通期の業績見通しは据え置いています。

業績ハイライト

連結経営成績(2025年1月1日~3月31日)

勘定科目2025年1Q実績 (百万円)2024年1Q実績 (百万円)前年同期比 (%)
売上高228,241249,453△8.5%
コア営業利益8,25111,334△27.2%
営業利益7,202△8,745
税引前四半期利益7,408△3,827
親会社の所有者に帰属する四半期純利益3,686△3,286
EBITDA21,00024,400△14.0%
基本的1株当たり四半期純利益(円銭)9.23△8.22

連結財政状態(2025年3月31日現在)

勘定科目2025年3月末 (百万円)2024年12月末 (百万円)増減 (百万円)
資産合計1,280,3111,331,848△51,537
資本合計634,003654,643△20,640
親会社の所有者に帰属する持分612,918632,474△19,556
親会社所有者帰属持分比率 (%)47.947.5+0.4pt

連結キャッシュ・フロー計算書(2025年1月1日~3月31日)

勘定科目2025年1Q実績 (百万円)2024年1Q実績 (百万円)増減 (百万円)
営業活動によるキャッシュ・フロー2,4843,557△1,073
投資活動によるキャッシュ・フロー△14,838△63,401+48,563
財務活動によるキャッシュ・フロー1,03541,761△40,726
現金及び現金同等物の増減額△14,300△18,083+3,783
現金及び現金同等物期末残高84,20690,380△6,174
フリーキャッシュ・フロー△12,400△59,800+47,400

(注)EBITDA、フリーキャッシュ・フローは決算説明資料より。現金及び現金同等物の増減額は決算説明資料の数値(為替変動影響調整前)。

業績分析

損益計算書(PL)の概況
2025年第1四半期の売上高は、実質ベース(為替影響、事業譲渡・買収影響除く)で前年同期比9.1%減となりました。中国・トラベルリテール事業における消費低迷の継続や、米州事業での「Drunk Elephant」ブランドの苦戦が主な要因です。
コア営業利益は、売上減に伴う差益減に加え、欧州や米州での減益が響き、31億円の減益となりました。一方で、日本事業における構造改革効果や全社的なコストマネジメント強化が一定の歯止めとなりました。
営業利益および税引前四半期利益は、前年同期に計上した日本の早期退職支援プランに係る構造改革費用などの非経常項目がなくなったことにより、大幅な改善を見せ、黒字転換を達成しました。

貸借対照表(BS)の概況
2025年3月末の総資産は、2024年12月末に比べ515億円減少し1兆2,803億円となりました。これは主に、円高による資産の換算額減少や、現金及び現金同等物の減少、有形固定資産の減少などによるものです。
負債合計は309億円減少し6,463億円、資本合計は206億円減少し6,340億円となりました。親会社所有者帰属持分比率は47.9%と、前期末から0.4ポイント上昇しました。

キャッシュ・フロー(CF)の概況
営業活動によるキャッシュ・フローは25億円の収入(前年同期は36億円の収入)となりました。税引前四半期利益の増加や減価償却費があったものの、営業債務の減少などが影響しました。
投資活動によるキャッシュ・フローは148億円の支出(前年同期は634億円の支出)となりました。前年同期に「Dr. Dennis Gross Skincare」買収に伴う大きな支出があった反動で、支出額は大幅に減少しました。
財務活動によるキャッシュ・フローは10億円の収入(前年同期は418億円の収入)でした。短期借入金の増加があった一方、社債の償還や配当金の支払いなどがありました。
これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は842億円となりました。

セグメント別業績

セグメント名売上高 2025年1Q (百万円)売上高 前年同期比 (%)実質成長率 (%)コア営業利益 2025年1Q (百万円)コア営業利益 前年同期比 (%)
日本事業74,186△2.4%△2.2%11,342+108.1%
中国・トラベルリテール事業74,961△12.1%△13.6%13,309△16.1%
アジアパシフィック事業17,071△0.3%△0.5%△82
米州事業27,196△14.5%△19.4%△1,853
欧州事業31,571△9.2%△8.7%△422
その他3,253△27.0%+3.0%85
合計228,241△8.5%△9.1%8,251△27.2%
  • 日本事業: 一時的な店頭在庫調整により減収となりましたが、顧客購買は引き続き力強いモメンタムを維持しています。「SHISEIDO」「クレ・ド・ポー ボーテ」「エリクシール」などのコアブランドが成長を牽引し、3月発売の「SHISEIDO」新アルティミューンも貢献しました。構造改革効果により、コア営業利益は前年同期比で倍増以上の大幅な増益を達成しました。
  • 中国・トラベルリテール事業: 中国本土では景況感悪化に伴う消費低迷が継続し減収となりましたが、Eコマースの「婦人節」イベントでは「クレ・ド・ポー ボーテ」や「NARS」が大幅に伸長しました。トラベルリテール事業は、日本におけるインバウンド需要は堅調だったものの、中国海南島や韓国における中国人旅行者の消費低迷が続き、全体では減収減益となりました。
  • アジアパシフィック事業: タイを中心とする東南アジアや韓国で成長したものの、台湾での市場縮小の影響を受け、ほぼ前年並みの売上高となりました。インフレに伴う人件費増などが影響し、コア営業利益は赤字となりました。
  • 米州事業: 「Drunk Elephant」の大幅な減収が継続し、事業の早期立て直しが急務となっています。全体として大幅な減収減益となり、コア営業利益は赤字幅が拡大しました。
  • 欧州事業: フレグランスは堅調だったものの、「Drunk Elephant」の減収や前年のシステム導入前の先行出荷による高いハードルがあり、減収となりました。コア営業利益も大幅な減益となりました。

過去の業績推移と課題

資生堂は、コロナ禍以降、市場環境の変化やサプライチェーンの混乱など、多くの課題に直面してきました。特に中国市場への依存度の高さや、米州事業の収益性改善が長年の課題として挙げられます。
2024年を通じて、中国・トラベルリテール事業は処理水問題の影響や市場の構造変化により厳しい状況が続き、米州事業も「Drunk Elephant」の成長鈍化が見られました。一方で、日本事業はインバウンド需要の回復と構造改革により、着実な回復基調にありました。
2025年第1四半期は、これらの傾向が継続しており、特に米州事業の立て直しと、中国・トラベルリテール事業の回復が喫緊の課題と言えます。

今後の展望と戦略

資生堂は、2025年12月期の連結業績予想を据え置いています。売上高9,950億円(前期比0.4%増)、コア営業利益365億円(同0.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益60億円を目指します。

重点戦略:

  1. 関税影響への対応: 米国の対中関税引き上げなど、地政学リスクの高まりに対し、サプライチェーンの最適化(地場調達先の変更、生産地の見直し)、在庫の積み増し、関税優遇措置の活用、卸売価格の引き上げ、固定費削減の上乗せなどの対策を講じ、影響の最小化を図ります。2025年のコア営業利益への影響は最大で年間70億円程度と試算しています(第2四半期は軽微)。
  2. グローバルコスト削減・構造改革の推進: 「アクションプラン 2025-2026」に基づき、2026年までに250億円以上のコスト削減を目指します。第1四半期には70億円の削減効果を実現しており、計画通り進捗しています。
  3. ブランド力の強化と成長加速:
    • 日本: 引き続き顧客購買の好調なモメンタムを維持し、コアブランドを中心に下期にかけて成長を加速させます。
    • 中国・トラベルリテール: 年間を通じて期初想定を上回る成長を目指します。
    • 米州: 新リーダーシップ体制のもと、「Drunk Elephant」の再起と「NARS」の強化、「SHISEIDO」とフレグランスの成長加速、固定費対応を進め、2026年のコア営業利益黒字化を目指します。
    • NARS、Drunk Elephant: グローバルブランドとして、それぞれイノベーション、コミュニケーション強化による再成長を目指します。
  4. 「アクションプラン 2025-2026」の完遂: 変化の激しい市場でも安定的な利益拡大を実現するレジリエントな事業構造を確立し、2026年にコア営業利益率7%の達成を目指します。

まとめ

資生堂の2025年第1四半期は、外部環境の厳しさや特定事業の課題が浮き彫りになる結果となりました。しかし、日本事業における構造改革の成果は明確であり、全社的なコスト削減も着実に進んでいます。
今後の焦点は、最大の課題である米州事業の立て直しと、依然として不透明感の残る中国・トラベルリテール事業の動向、そして関税問題への対応策の有効性です。同社が掲げる「アクションプラン 2025-2026」の完遂と、その先の持続的な成長軌道への回帰に向け、経営陣の手腕が問われる局面が続きます。株主・投資家は、これらの課題解決に向けた具体的な進捗を注視していく必要があるでしょう。

(免責事項:本記事は公開情報に基づき作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断はご自身の責任において行うようにしてください。)

参考ページ:資生堂決算短信・決算説明

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金融データ分析メディア「インベスター・ラボ」所長 兼 データアナリティクススペシャリスト。 日々変化する株式市場の海の中から、データという羅針盤を手に「隠れた成長企業」という宝の島を探し求める探求者。複雑な財務データや市場トレンドを分かりやすく紐解き、個人投資家の皆様の意思決定をサポートすることを使命に燃えている。チョコに目がない
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